多くのお産に携わる中で
忘れられないお産はいくつもあります。
その中でも活動の原点ともなった
強烈な印象が残っているお産があります。
その方は37歳の初産婦Aさん
ご主人が10歳近く上のご夫婦で
5年の不妊治療を経て授かった貴重児でした。
妊婦健診でお会いしていた時のAさんの印象は
真面目で妊娠中からいろいろと勉強をされていました。
母親学級でも積極的に質問をしていました。
しかし同時に私たちは心配もしていました。
こんなに勉強もして真面目になりすぎて心身共に疲れてしまわないか…
いざお産の時に理性が強く働きうまくお産に結びつかないのではないか…
※お産時に理性が強く働くとお産はうまくいかないとは?
詳細はこちら【出産時あなたはパニックになる?今から知るあなたの『出産傾向』】
その後妊婦健診や母親学級で
Aさんにお会いする機会がなくなってしまいました。
そしてAさんのお産が近づき気になっていた矢先
私が分娩担当の日に陣痛で入院をされてきたのです。
入院をされた時
久々に会ったAさんはいつもの真面目な感じとは違い
すごくニコニコし
何か旅行にでも来たかのような楽しそうな雰囲気でした。
言葉を選ばずに言うと
なにか憑き物がとれたような感じ。
「もうすぐこの子に会えると思うと嬉しくて」
陣痛が少しずつ強くなっていく中でも
このようなポジティブな発言をされ
一つずつの陣痛を
丁寧に上手に呼吸をしながら乗り越えていました。
一緒に付き添ったご主人はカメラマン役でもあり
随時お産の進行を記録しながら
Aさんの傍を離れず
マッサージと呼吸法を一緒に行っていました。
そしてふたりでずっと
お腹に声をかけ
「今の陣痛きつかったね」「よくがんばったね」
と常に赤ちゃんを意識して陣痛に挑まれました。
Aさんの入院時
分娩の進行には少し時間がかかるかもという所見でしたが
予想に反してとてもスムーズにお産が進行し
初産婦さんの平均である
13時間の陣痛を乗り越え自然分娩となりました。
そしてこの時の出産は
私の助産師人生の中で初めて味わった
まさに「お祭りの様な出産」だったのです。
赤ちゃんが出口部まで近付き
お母さんもいきみが出てきいよいよ苦しくなる状況
にも関わらず
「すごい赤ちゃんが挟まっている、ここにいる、嬉しい」
「この挟まっている感じ、気持ちいい」
「こんな経験これからもあるか分かんないからしっかり楽しまなきゃ」
キツイ陣痛の短い合い間に呼吸を整えながら
Aさんは目をキラキラさせてその時間を楽しんでいました。
そして赤ちゃんが生まれた瞬間
「やったー」「さいこー」「気持ちいいー」
それはそれは大興奮
分娩室の中がどっと湧き。
一瞬にしてお祭りの様になりました
ご主人も両手をあげ喜び
ふたりは抱き合い心から赤ちゃんの誕生を喜びました。
ご主人は踊ってもいました。
「こんな出産ってあるんだ」
それまで経験したことのないお産現場に
介助の私も嬉しくて思わず泣いてしまいました。
それぐらい
ご夫婦の愛情とパワーに感化されたのだと思います。
後日、出産の振り返りをした際
私はなぜあのような素晴らしいお産になったか
Aさんはどのように思っているのかを聞きました。
そしたら
やはり安定期半ばまでは高齢初産であることから
妊娠・出産・育児が不安でだったそうです。
知識を入れていってもどんどん不安になり
心配と恐怖で押しつぶされそうになった期間があったと。
しかしご夫婦で
それではこの妊娠期間中がもったいない
せっかくお腹に赤ちゃんがいるこの時期を楽しまなきゃ
と話し合いをし
そこから必要以上の情報収集はせず
毎日毎日を愛おしく過ごすことにしたのだそう。
そうするとお産に対する恐怖心はやがて楽しみになり
赤ちゃん生まれる過程をじっくり味わいたい
と思うようになったそうです。
そう思うためには
妊娠期間中に自分の「こころとからだ」を整えていくことが大事で
それが素晴らしいお産につながったと教えてくれました。
その後Aさんは
この妊娠期間中で得た経験が基に
「こころとからだの調和」に目覚め
今ではヨガの有名な講師として活躍されています。
私がAさんの出産につかせて頂いたのは
26歳のときでした。助産師になって4年目。
関わってきたお産件数も多くなり自分である程度自信もでてきたとき。
しかしこのお産は私の今までの価値観をがらっと変えました。
私はAさんみたいな産婦さんを増やすべきなのではないか。
そして私はそれが今までできていなかったのではないか。
お産はこんなにも素晴らしく
その後人生も明るく照らしてくれる瞬間。
そして私たちがそれを導かなければいけないんだと。
ただ安産にスムーズにお産の介助をすることが優先となっていた私は
このお産で衝撃をうけました。
その後
私のお産への介助の仕方は変わりました。
そしてその後「気持ち良かったー」「楽しかったー」
と言いながらお産をする方を
多くみることができるようになってきました。
高齢出産であることは
決してデメリットではありません。
そしてお産は
妊娠できたお母さんは誰でも乗り越えるようになっています。
だからこそ自分の力と赤ちゃんの力を信じて欲しい。
それを強烈に胸に刻むことができた出産でした。
これが私の活動の原点です。
※活動の原点やバースコンサルタントの活動の詳しい内容はインタビューでも話させて頂いています。
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