帝王切開とは、何らかの理由で経腟分娩ができないと判断された場合に行われる出産方法です。経腟分娩に対し経腹分娩とも呼ばれ、腹部に切開を入れることで赤ちゃんを娩出させる方法です。
帝王切開の名前の由来は、古代ローマ帝国の王家カエサルが生まれたのがこの方法であったとか、ドイツ語の誤訳とか、はっきりした理由は分っていません。
今回は帝王切開によってできる傷について詳しく説明をしていきたいと思います。
帝王切開の傷の特徴
帝王切開は主に、腹部を縦に切開する縦切開と、横に切開する横切開に分けられます。 十時(縦の傷と横の傷)に切開する方法もありますが、これを行うケースはほぼありません。
ひと昔前までは、縦切開が一般的でしたが、現在は横切開の方が好まれるようになってきました。傷の大きさは、どちらも10センチ程度になりますが、縦切開は出産後に腹部の大きさが変化するのに影響されるため、人によって傷の大きさにばらつきが出やすくなります。10センチも切開を入れるのは、正期産の赤ちゃんの頭(体のなかで一番大きい部分)が通るサイズがこのサイズだからです。
縦切開(縦切り)について
縦切開とは腹部を縦に切る切開方法で、妊娠時でのお腹で、おへそから3センチ程下~恥骨上部までに切開をいれます。
縦切開は、緊急を要した際に行われる切開方法です。(ここでいう緊急とは、母体や胎児に異常があり緊急に赤ちゃんを娩出しないといけないと判断された状況の事を指します。)腹部の真ん中を縦に切るこの方法は、手術をスムーズに行うことができ、術野(手術の視野)も広くとれるため、より安全かつスピーディーに赤ちゃんを娩出することが可能です。また横切開に比べ、傷の癒着が起こりにくくなります。しかし、傷が腹部の真ん中に残るため、美容的な観点から言えば好ましくありません。
横切開(横切り)について
横切開とは下腹部を横に切る切開方法で、恥骨上部を横に10センチ程切開します。この部分の皮膚は横に繊維が走っているため縦切開より傷跡が残りにくく、普段の生活でもショーツ部分に隠れるため、美容的観点から好ましい方法です。緊急性はないが帝王切開が望ましい方の場合は、この切開方法を推奨しています。しかし、縦切開に比べると癒着が起こりやすいため、次回の出産時が帝王切開の場合や、今後婦人科疾患を患い開腹手術をしないといけない場合には癒着がある可能性があるため、出血のリスク等が高くなります。
前回も帝王切開をした方の場合
前回も帝王切開をされた方は、 傷をいくつも作らないために、今回も前回の傷と同じところを切開していきます。そのため、以前の傷の跡がケロイド化(みみず腫れのような傷跡)していても、その部分を切除しケロイドを取り除いた皮膚同士で縫合するため、見た目には前の傷跡が消え、その上に新しい傷が再度できることになります。
帝王切開の傷の痛みについて
手術後の傷の処置
手術後の帝王切開の傷は、溶ける糸で埋没法(皮膚表面に糸が見えない方法で縫合する方法)や、傷を閉じるテープを貼る方法、ホッチキスのようなもので留める方法等があります。傷の閉じ方はその病院で違いますが、どれも優劣はつけられません。入院期間中は創部のチェックを行い、必要に応じて消毒を行います。帝王切開の場合、多くの施設では術後翌日から歩行が開始になります。術後3日目にはシャワーが開始になるでしょう。その際にも創部の部分を濡れないようにテープで覆いシャワーに入ります。数日し創部の縫合がしっかりなされていれば、テープをはがし、創部周辺の皮膚をしっかりシャワーで洗い清潔を図ります。
傷の痛みはいつまで続くのか
帝王切開の傷の痛みと一緒に後陣痛(大きくなった子宮が戻るための産後の陣痛)があるため、術後2~3日は動作によりずーんとした重い痛みを感じます。その後は創部痛も後陣痛もだいぶ和らぎ、動作も軽やかになってきます。しかし、しゃがむ姿勢やお腹に力を入れる姿勢は、入院の間はきつく感じる場合があります。退院後~1ヶ月までは、たまに痛みを感じる程度になります。授乳の時などに傷の部分に赤ちゃんがのったりすると痛みを感じます。産後2~3か月はたまに創部の軽い痛みを感じるでしょう。
自宅に帰ってからも痛みの具合が強い場合は、我慢をせず必ず出産した施設に相談してください。単なる傷の痛みではなく、腹部の出血や感染も考えられます。
傷の痛みの対処方法
手術直後は麻酔が効いており、術後数日は麻酔薬を少しずつ流しながら痛みのコントロールをしていきます。歩行が可能になったり、食事が開始すると飲み薬での疼痛コントロールを図ります。退院間近になると、内服しなくてもよい時間が増えてきます。しかし、退院後も痛みに不安がある場合は、お守り替わりとして痛み止めを退院時に処方してもらうと良いでしょう。
傷のケアと生活で注意すべきこと
帝王切開の傷は大きいため、その後傷跡が目立つ方も少なくはありません。傷跡の残り方はその方の体質にも関係があり、傷ができた後ケロイドができやすい方は、切開の傷もケロイド化してしまう可能性が高いでしょう。しかし、それを最小限に抑えることはできます。
まずは、傷が外側に広がらないようにすることと、 傷の部分がこすれないようにするのが大事です。スキントーンテープといった肌に負担がかかりにくいテープを細かく裁断し、傷を寄せるように傷に対し垂直に貼ります。その細かく貼ったテープ同士を少しずつ重ね、うろこ状にすると傷が広がらないようにする力が強くなります。また、その上から腹帯で傷を寄せるのもいいでしょう。しかし、ガードルといったきつめにお腹を締めるタイプは、傷に負担を掛けるため産後しばらくは避けましょう。産後ベルト使用する際は傷の部分にガーゼ等を当て、ベルトが直接傷に当たらないように心掛けてください。
また、ケロイド体質の方はあらかじめ担当医師に相談し、創部の血行と新陳代謝を促す軟膏を処方してもらうのも良いでしょう。(ヘパリン類似物含有等)
まとめ
現在は、一度帝王切開された方は、次回の出産も帝王切開をすることになってききています。手術をしたことにより、子宮の壁の瘢痕が強く残ったり薄くなってしまうことで、陣痛が起こった際に子宮破裂の危険性が高くなるからです。そのため、昔より帝王切開の割合が増えてきています。誰もが帝王切開の可能性はあります。その時にできてしまった傷と仲良く過ごしていく為にも今回の記事を参考にされてくださいね。